大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)187号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。

成立に争いがなく、かつ引用例と記載内容が同一であることについて当事者間に争いのない甲第七号証によれば、引用例記載の考案は、「スライド板の直線辺に、垂直、又は、斜線上に一定間隔に、小穴を明けた板」(別紙図面(二)参照)というものであり、右考案においては、スライド板の直線辺に垂直な線又は該直線辺に対し斜線をなす線上に一定間隔に明けた小穴に筆記具の芯を入れ、スライド板を固定定規の直線辺に沿つて移動させて等間隔の平行線を描けるようにしようとするものであつて、右平行線のほかに、固定定規の直線辺(あるいはスライド板の直線辺)を利用して、右平行線に平行する直線を描くことをも目的としたものではないことが認められる。

そして、成立に争いのない甲第二、第三、第六号証によれば、本願考案の明細書の考案の詳細な説明の項には、「従来、スライド板の直線辺に、垂直、又は斜線上に、一定間隔に小穴を明けた定規の、穴と穴を使用して等間隔の平行線を引くスライド板は公知されて居るが、このスライド定規は、穴、穴、穴等を使用して等間隔の平行線を容易に引く事が出来るものであるが、固定した直線定規に筆記具で線を引くと、穴と穴の間隔より狭い間隔になるので等間隔の平行でなくなるので、ある基本線より等間隔の平行線を引く場合、使用して等間隔の平行線は、基本直線に、スライド板の辺に最も近い穴に合せ、目測で、スライド板が基本直線に平行にして、等間隔の平行線を引く事になるため、目測のため片肉の平行線、不等間隔の平行線になる等の欠点があつた。本考案は、その欠点を除くために考案されたもので、」(本願考案の実用新案登録願書に添附した明細書第一頁第九行ないし第一九行、昭和五九年二月二二日付手続補正書第二葉第一行ないし第一六行)と記載されていることが認められる。

以上の認定事実によれば、本願考案に関する明細書の前記記載には意味不分明の部分もあるが、その趣旨は、要するに、引用例記載の考案においては、スライド板の小穴に筆記具の芯を入れ、スライド板を固定定規の直線辺に沿つて移動させて平行線を描く場合、その平行線相互の間では等間隔を保つことができるが、更に、固定定規の直線辺を利用して右平行線に平行する直線を描く場合、当該直線とスライド板の直線辺(それは固定定規の直線辺に一致する。)に最も近い小穴を利用して描いた直線との間隔は、小穴と小穴を利用して描いた平行線の相互間の間隔より狭くなり、全体として等間隔の平行線を得ることができないので、右欠点(もともと、引用例記載の考案は、固定定規の直線辺を利用して平行線を描くことをも目的としたものではなかつた。)を解決することを目的として、スライド板に、その直線辺より等間隔(別紙図面(一)第1図表示のa距離)に小穴の下面を合わせて、小穴を明けるという構成を採用し、スライド板の小穴に筆記具の芯を入れ、スライド板を移動させながら線を描く際、当該芯は、小穴の下面に位置するものであるという認識のもとに、考案されたものであることが認められる。

ところで、等間隔の平行線を得るために、スライド板の小穴だけでなく、固定定規の直線辺(あるいはスライド板の直線辺)をも利用しようとする場合、右直線辺を利用して描いた直線とスライド板の直線辺に最も近い小穴を利用して描いた直線との間隔を、小穴と小穴を利用して描いた二直線の間隔と同じものにするために、本願考案におけるように、等間隔に小穴の下面を合せる程度のこと、すなわち、スライド板の直線辺と右直線辺に最も近い小穴の下面との間隔と、隣り合つた二個の小穴の下面相互間の間隔とが等しいものとすることは、それのみによつて必らず等間隔の平行線を描くことができるかどうかは一応別として、引用例記載の考案を前提とすれば、当業者においてきわめて容易に想到しうる程度のことというべきである。

しかも、本願考案にかかるスライド板の小穴は円形状であること(別紙図面(一)参照)からすると、スライド板の小穴に筆記具の芯を入れ、芯を小穴の下面に圧していても、スライド板とともに横方向に力を加えてスライドさせると、二つの力の和のベクトルは、二つの力を二辺とする三角形の等三辺となる結果、小穴を埋めてしまうような太さの芯でも用いるか、芯を小穴の下面に安定させる相応の手段を講じない限り、通常、筆記具の芯は円形状小穴の下面から浮き上り、小穴の横の方向に移動することは当然の事理である。そして、右のように筆記具の芯が円形状小穴の下面から浮き上ると、固定定規の直線辺を利用して描いた直線とスライド板の直線辺に最も近い小穴を利用して描いた直線との間隔は、小穴と小穴を利用して描いた二直線の間隔と異なつてくることになり、その場合には、本願考案に引用例記載の考案と比べて格別の作用効果があることを認めることはできない。

仮に、筆記具の芯の小穴の下面から浮き上らせることなく、小穴の下面に維持させたまま直線を描くことができ、固定定規の直線辺を利用して描いた直線とスライド板の直線辺に最も近い小穴を利用して描いた直線との間隔と、小穴と小穴を利用して描いた二直線の間隔とが等しいものが得られたとしても、右作用効果は、当業者の予測しうる程度を越えるものではないと認められるから、本願考案が右作用効果を奏するからといつて、本願考案は当業者においてきわめて容易に考案をすることができたものに当たらないとすることはできない。

以上の次第であるから、本願考案は実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないとした審決には、原告主張の違法は認められない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

スライド板の直線辺に、垂直、又は斜線上に、等間隔に小穴の下面を合せ、小穴を明けた定規。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

<省略>

(二)

<省略>

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